昨今、労働者を違法な条件や環境で雇用するブラック企業が、しばしば問題として取り上げられることが増えた。
就職活動を控えた学生に対し、実際の職場や仕事を見学する機会や体験する機会を提供するインターンシップでもいくらか問題が発生している。
いわゆる「ブラックインターン」と呼ばれるものだ。
明らかに業務に従事させていながら賃金を支払わないケースや、やりがいなどを強調し、不当に低い労働条件で仕事をさせることなどが例としてあげられている。
そのような時代背景の下、復興庁によって平成28年度・29年度(2016年~2018年)の2年に渡り実施された「復興・創生インターン」が個人的に気になった。
国が主導する事業なのだから、法的に問題ない内容なのは間違いないだろう。
そもそも、何らかの訴えが起こされている事実もない。
だが、少々気になる点があったのだ。
この記事では、その気になった点について記す。
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目次
- 「復興・創生インターン」とは何か?
- 「復興・創生インターン」は最低賃金が支払われたのか? そもそもどのような内容なのか
- 「復興・創生インターン」がブラックインターンかは議論はあるだろうが改善すべき点はある
「復興・創生インターン」とは何か?
今回、個人的に気になったのは、「復興支援インターン」ではなく、「復興・創生インターン」である。
前者は被災地の企業と大学が連携して行うインターンだ。
一方後者は、被災地の企業で学生が個別に行うインターンである。
この取組は、東日本大震災によって大きな被害を受けた地域において、そこで活動する企業の現場を見聞きする意味で、価値を持つ取り組みなのだろう。
とりわけ学生の多くは就活において大手企業を志すことが多いだろうから、東北の被災地で活動する中小企業の現場を見ておくのは、稀少な機会なのかもしれない。
「復興・創生インターン」は最低賃金が支払われたのか? そもそもどのような内容なのか
そもそも「復興・創生インターン」とは何か? 復興庁によれば、以下の目的があるという。
単なる就業体験に留まらず、被災地企業が抱えている経営課題に対し、経営者と協働して解決に取り組む実践型インターンシッププログラムであり、約1ヵ月間、学生同士、共同生活を送りながら就業体験を経験することにより、キャリア観の醸成や課題解決能力の向上を図ることを目的としています。
出典:平成 29 年度「復興・創生インターン」春期(平成 30 年2月~)の実施について そして、そのために以下の内容が定められている。
- インターンシップ期間:1ヵ月程度
- 活動日:週4日以上、1日6時間以上
※相談可能 これに対して、復興庁側(※事業受託企業:株式会社パソナ)から、以下の支援が受けられるという内容である。
- 自宅から就業場所に往復する分の旅費交通費
- 宿泊費を不要とする。シェアハウスなどの宿泊場所の提供
- 食事代等1日当たり850円の日当
- インターンシップ保険加入
- 事前研修、インターンシップ期間中の集合研修・カウンセリング、インターンシップ 実施後のキャリアサポート等
肝心の企業側がどのような募集を行っていたかを示すホームページは、平成29年度(2017年)の事業終了を以て閉鎖されてしまった。
そのため、ここで閲覧してもらうことはできない。
内容として、以下のような内容が示されているものが多かった。 簡単にまとめると主に以下のような内容である。
- 広報
- 営業
- リサーチ
- コンテンツ作成
- マーケティング
一例を出すと以下の画像のようなものが挙げられる。
画像に記載されている通り、新規取引先の開拓など、具体的な内容を提示している事業所が見られている(あくまで「復興・創生インターン」事業に参加しただけの当該企業を非難する意図は全くない)。
インターンシップを思わせる内容もあるが、中には求人に近い内容も少なくない。
これはあくまで一例である。
実態は定かでないが、人によっては「やりがいな被災地での稀少な経験を謳い、食事代の日当850円だけで学生を都合良く使っているだけでないか?」と考えずにいられないのではなかろうか。
少なくとも私はそう感じてしまった。
体験というには、あまりに内容が業務に見えるためである。
少なくとも、果たして最低賃金が補償されていないのは適切なのか個人的に疑義を感じざるをえない。
一方で、記述は業務に見えても、実際はまるっきり学習であった可能性もゼロではない。
その場合は、業務ではなくインターンシップで間違いないだろう。
なお、募集要項は既にサイトが閉鎖されてしまったため見られないが、実際にどのような内容が行われたかなどは、Facebookなどで発信されているケースもある。興味があれば一度確認してみて欲しい。
ちなみに、私は確認を目的として、独自にこの「復興・創生インターン」事業を受託した株式会社パソナの担当者に対し、真実賃金が支払われていないのか確認している。
結論をいえば、賃金は支払われていないとのことだった(公開しないが、担当者からのメールは残っている)。
株式会社パソナは国内の人材業界最大手の一角とされる。
それだけの規模の会社が、インターンとはいえ危ない橋を渡るとは到底思えない。
そのパソナが賃金の支払いが必要ないと言うのだ。
そうであるならば、本件が労働者性を伴わない適法な内容だと考えるのは、恐らく杞憂なのだろう。
「復興・創生インターン」がブラックインターンかは議論はあるだろうが改善すべき点はある
就活やインターン、日々の学業に大きな時間を割かれる学生にとって、およそ1ヶ月という期間は貴重な時間である。
まして、昨今は奨学金の返済に苦慮する人々が大きな問題として話題になるなど、収入面でも苦労している学生は少なくない。
およそ1ヶ月という自由に使える時間があれば、それこそアルバイトでもすれば結構な金額が稼げるはずだ。
それだけの時間を企業の経営課題の解決などに費やしながら、報酬が得られない「復興・創生インターン」は、一体どれだけの価値を持つのだろうか。
その活動をする合理性はあるのだろうか。
今後も実施されるのかは分からないが、仮に実施されるのであれば、その内容に対して適切な報酬が得られる設計はすべきでないかと考える。
本人たちが自ら志願しているのだから、何をやらせても良いという考えはあってならない。
まして、本件は異なるのかもしれないが、そういった学生の気持ちを利用してただ働きをさせるようなことが起こるのは、絶対に避けなければならない。
「復興・創生インターン」に参加する学生に労働者性が認められるかどうか、先に示した内容を鑑みるに、この点に対して議論はあるかもしれない。
少なくとも厚労省が提示している以下の点を鑑みれば、労働者性が全くないと言えないかには怪しさがつきまとう。
- 見学や体験的な要素が少ない。
- 使用者から業務に関わる指揮命令をうけている。
- 学生が直接の生産活動に従事し、それによる利益・効果が当該事業所に帰属する。
- 学生に対して、実態として何らかの報酬が支払われている。
ちなみに過去実施された「復興・創生インターン」を体験した学生の反応や感想をメディア等を通して見るに、特別不満があったようには感じられない。
達成感に溢れた姿が見られる。
非常に喜ばしいことだと思う。
しかし何度も言うが、そういった反応に甘んじて労働法制を軽視するようなことは絶対にあってはならない。
「本人達が満足しているのだから、払うものを払わなくても良い」などという道理はない。
繰り返すが、今後も実施されるのであれば、適切に報酬が支払われる内容になるよう改善して欲しいものである。
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